ソフトバンクグループのAI開発会社SB Intuitions(エスビー・イントゥイションズ)が、2026年10月29日、国産AI「Sarashina(サラシナ)」シリーズで初めての「思考モデル」となる「Sarashina3.2 mini thinking」を発表しました。無料のお試し版として公開中の「Sarashinaサービス」で、API(プログラムからAIを呼び出す仕組み)を通じてすぐに使えます。
思考モデルとは、質問を受けてすぐに答えるのではなく、答える前に「頭の中で考える」時間を取るAIのことです。今回のモデルは、考える深さを3段階から選べるほか、外部ツールの呼び出しやWeb検索を使った回答、安全性が大きく強化されました。
この記事では、エンジニアでない方にも分かるように、SarashinaとはどんなAIなのか、思考モデルで何が変わるのか、公式の性能データ、使い方、注意点を順番に整理します。Sarashinaサービスそのものの始め方は、当サイトの過去記事「国産生成AI「Sarashina」を無料で試せる! 6つのAIモデルのAPIとチャットが提供開始」でも紹介しています。
SarashinaとSB Intuitionsとは?
SB Intuitionsは、ソフトバンク傘下で東京都港区に本社を置く、国産の生成AIを開発する会社です。「Sarashina」は同社がゼロから(フルスクラッチで)開発している大規模言語モデル(LLM)のシリーズで、日本語のデータを重点的に学習させているのが特徴です。
2026年6月に公開した「Sarashina3 mini」「Sarashina3 nano」は、約30兆トークンという大量のデータで事前学習したモデルで、デジタル庁の「ガバメントAI」の試用モデルにも採用されています。10月13日からは、これらのモデルを無料で試せる「Sarashinaサービス」の無償ベータ版が始まりました。今回の思考モデルは、そのラインナップに追加された7つ目のAPIモデルです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モデル名 | Sarashina3.2 mini thinking(APIでのモデル名は sarashina3.2-mini-thinking) |
| 開発元 | SB Intuitions株式会社(ソフトバンク傘下、東京都港区) |
| 発表日 | 2026年10月29日 |
| 種類 | 思考モデル(答える前に考えるAI)。Sarashinaシリーズ初 |
| 開発方法 | 海外モデルの改造ではなく、フルスクラッチ(ゼロから)で開発 |
| 規模(パラメーター数) | 未公表 |
| 考える深さ | low(浅い)・medium(中くらい)・high(深い)の3段階から選べる |
| 一度に読める量 | 12万8,000トークン(約128k)。1回の回答の上限は8,000トークン |
| 使える場所 | Sarashinaサービス(無償ベータ版)のAPI |
| 料金 | 無償ベータ版は無料(提供終了時期は未定)。正式な有料料金は未発表 |
| 重み(モデル本体)の公開 | なし(Hugging Faceの公式ページにも本モデルは未掲載)。API経由でのみ利用 |
「思考モデル」とは? 何が変わったのか
これまでの「Sarashina3 mini」は、質問を受けると直感的にすぐ答える「指示モデル(Instruct model)」でした。一方、今回の「Sarashina3.2 mini thinking」は、まず質問の内容を分析し、いくつかの仮説から答えの候補を挙げ、それを見直してから最終的な答えを出します。
身近なたとえで言えば、会議中にとっさに答える「即答型の担当者」と、いったんメモ用紙に考えを書き出し、計算や確認をしてから答える「熟考型の担当者」の違いです。熟考型は少し時間がかかりますが、複雑な問題でも間違いにくくなります。
しかも、どれくらい考えるかを3段階で選べます。簡単な問い合わせ対応なら「low」で素早く、難しい計算や複雑なプログラム作成なら「high」でじっくり、という使い分けができます。公式ブログでは、ECサイトの顧客対応のように、注文状況などの事実をツールで調べられる場面では「low」でも適切に対応でき、応答が速くなると説明しています。
もう一つのポイントは、「考えている途中のメモ」と「最終的な答え」が分けて出てくることです。そのため、「JSON形式のデータだけを出して」「表だけを出して」といった、決まった形式での出力を求める業務でも、余計な文章が混ざりにくくなっています。
公式ブログでは、主な活用例として次の4つが紹介されています。
- 数学的な処理を含むプログラム(動く図形を描くWebページなど)の生成
- Web検索を使ったチャット。学習していない最新情報も検索して出典つきで答える一方、危険な手順などは回答を拒否
- 文章から情報を取り出し、JSONや表の形式で整理する作業
- ECサイトのカスタマーサポートを想定した、注文照会やキャンセル処理などのツール操作
なぜ「国産LLM」が注目されるのか
海外の高性能なAIが数多くある中で、国産LLMが注目される理由は大きく2つあります。
1つ目は日本語の扱いです。Sarashina3の文字の区切り方(トークナイザ)は日本語向けに設計されており、公式サイトの例では、同じ日本語の文章を米国のあるモデルが80トークンで表すところ、Sarashina3は40トークンで表せるとしています。日本語版Wikipedia全体で比べても、米国モデルAが約14億、米国モデルBが約12億トークンなのに対し、Sarashina3は約9.5億トークンでした(SB Intuitions調べ、2026年)。トークン数が少ないほど、処理の速さやコストの面で有利になります。
2つ目はデータの置き場所と、日本のルールに合わせた運用です。公式サイトは、国内で開発することで日本の法律や社会的な規範に沿った運用ができると説明しています。また、ソフトバンクが企業向けに提供しているSarashinaの有料サービスでは、データを国内のデータセンター内で処理し、AIの再学習には使わないとしています。ただし、今回の思考モデルはこの企業向けサービスのモデル一覧にはまだ載っておらず、無償ベータ版での提供です(詳しくは後述の注意点を参照)。
公式ベンチマーク:他社モデルとの比較
SB Intuitionsは、12種類のテストで他社のモデルと比較した結果を公開しています。比較相手は、前の世代のSarashina3 mini、国立情報学研究所(NII)のllm-jp-4.1-33B-thinking、中国Alibabaの Qwen3-32B と Qwen3-235B-A22B-Thinking-2507、米OpenAIの gpt-oss-120b と GPT-5.4 miniです。考える深さを選べるモデルは、すべて「medium」で揃えています。
表の数値は、公式ブログのグラフに表示されている値です。点数の付け方が違うテストも、0〜1の範囲に揃えて表示されています。すべて「数値が高いほど良い」テストです。
| テスト(何を測るか) | Sarashina3.2 mini thinking | Sarashina3 mini | llm-jp-4.1-33B-thinking | Qwen3-32B | Qwen3-235B-A22B-Thinking-2507 | gpt-oss-120b | GPT-5.4 mini |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ELYZA-tasks-100(日本語の1問1答) | 0.84 | 0.81 | 0.78 | 0.78 | 0.83 | 0.80 | ★ 0.85 |
| J-MultiChallenge(日本語の複数回のやり取り) | 0.45 | 0.26 | 0.39 | 0.37 | ★ 0.55 | 0.47 | 0.52 |
| JamC-QA(日本文化の知識) | 0.69 | ★ 0.82 | 0.57 | 0.48 | 0.65 | 0.52 | ★ 0.82 |
| AIME25(数学) | 0.79 | 0.63 | 0.63 | 0.72 | ★ 0.84 | 0.80 | 0.82 |
| MBPP+(プログラミング) | ★ 0.81 | 0.80 | 0.79 | 0.78 | ★ 0.81 | ★ 0.81 | 0.80 |
| GPQA-Diamond(理系の専門知識) | 0.65 | 0.57 | 0.62 | 0.66 | ★ 0.82 | 0.71 | 0.80 |
| IFBench(指示どおりに出力できるか) | ★ 0.69 | 0.58 | 0.56 | 0.32 | 0.47 | 0.58 | 0.57 |
| J-tau(日本語のエージェント操作) | ★ 0.77 | 0.39 | 0.67 | 0.39 | 0.62 | 0.55 | 0.69 |
| tau2-bench(エージェント操作) | 0.55 | 0.34 | 0.52 | 0.36 | ★ 0.56 | 0.55 | 0.46 |
| BFCL v3(ツール呼び出し) | ★ 0.75 | 0.60 | 0.68 | 0.69 | 0.72 | 0.58 | 0.60 |
| JEMHopQA(検索して答える力) | 0.76 | 0.08 | 0.73 | 0.49 | 0.79 | 0.70 | ★ 0.85 |
| JMT-Safety(安全性) | ★ 0.95 | 0.80 | 0.90 | 0.65 | 0.69 | 0.89 | 0.94 |
★と色付きは各テストの1位です(数値はSB Intuitions発表)。
Sarashina3.2 mini thinkingが1位になったのは、指示どおりの出力(IFBench)、日本語のエージェント操作(J-tau)、ツール呼び出し(BFCL v3)、安全性(JMT-Safety)、そしてプログラミング(MBPP+、同点1位)です。公式ブログも「エージェント能力において高い競争力を有している」とまとめています。
一方で、公式ブログは弱点も正直に書いています。日本文化の知識(JamC-QA)は前の世代のSarashina3 miniより下がっており、理系の専門知識(GPQA-Diamond)や複数回のやり取り(J-MultiChallenge)では、Qwen3-235B-A22B-Thinking-2507やGPT-5.4 miniに及びません。また、AIにプログラミング作業を任せる「コーディングエージェント」向けの学習は十分ではないとしています。
考える深さによる違い
公式のAPIドキュメントには、考える深さ(low・medium・high)ごとの点数も公開されています。こちらは各テスト本来の点数で、すべて「数値が高いほど良い」ものです。前の世代のSarashina3 miniと並べると、深く考えるほど伸びるテストと、ほとんど変わらないテストがあることが分かります。
| テスト(何を測るか) | Sarashina3 mini | 3.2 mini thinking(low) | 3.2 mini thinking(medium) | 3.2 mini thinking(high) |
|---|---|---|---|---|
| ELYZA-tasks-100(日本語の1問1答・5点満点) | 4.23 | 4.16 | ★ 4.35 | 4.32 |
| MT-Bench(対話の質・10点満点) | 7.70 | 8.61 | 8.51 | ★ 8.66 |
| J-MultiChallenge(日本語の複数回のやり取り) | 0.264 | 0.375 | 0.448 | ★ 0.454 |
| JamC-QA(日本文化の知識) | ★ 0.821 | 0.670 | 0.694 | 0.680 |
| AIME25(数学) | 0.633 | 0.656 | ★ 0.789 | ★ 0.789 |
| MATH-500(数学) | 0.969 | 0.957 | 0.975 | ★ 0.981 |
| GPQA-Diamond(理系の専門知識) | 0.571 | 0.630 | 0.645 | ★ 0.670 |
| MBPP+(プログラミング) | 0.800 | 0.797 | 0.813 | ★ 0.815 |
| JHumanEval(日本語のプログラミング) | 0.860 | 0.931 | ★ 0.943 | 0.933 |
| SWE-bench Verified(実際のプログラム修正) | 0.018 | 0.298 | 0.326 | ★ 0.340 |
| IFBench(指示どおりに出力できるか) | 0.585 | 0.693 | 0.695 | ★ 0.729 |
| J-tau(日本語のエージェント操作) | 0.385 | 0.557 | ★ 0.768 | 0.715 |
| tau2-bench(エージェント操作) | 0.343 | 0.434 | ★ 0.554 | ★ 0.554 |
| BFCL v3(ツール呼び出し) | 0.598 | 0.746 | 0.749 | ★ 0.750 |
| JEMHopQA(検索して答える力) | 0.077 | 0.723 | ★ 0.761 | 0.670 |
| FRAMES(検索して答える力) | 0.266 | 0.638 | 0.749 | ★ 0.756 |
| JMT-Safety(安全性) | 0.798 | 0.947 | 0.951 | ★ 0.955 |
★と色付きは各テストの1位です(数値はSB Intuitions発表)。
実際のプログラム修正(SWE-bench Verified)は0.018から0.3台へ、検索して答える力(JEMHopQA、FRAMES)も大きく伸びました。一方で、J-tauやJEMHopQAのように「high」より「medium」の方が高いテストもあり、深く考えさせれば必ず良くなるわけではありません。日本文化の知識(JamC-QA)は、どの深さでもSarashina3 miniを下回っています。
公式Xでの発表
SB Intuitionsの公式Xアカウントによる、2026年10月29日の告知投稿です(動画はなく、文章のみの投稿です)。ツール呼び出しや検索の精度向上、3段階の思考レベル、安全性の強化に加え、APIの改善点なども案内されています。
料金と提供状況
現時点でSarashina3.2 mini thinkingを使える公式の窓口は、無償ベータ版の「Sarashinaサービス」です。利用料は無料で、Googleアカウントでログインすれば事前の申し込みなしで使えます。ただし、一定時間あたりのリクエスト数に上限(レート制限)があり、このモデルは1分あたり30回までです。無償ベータ版がいつ終わるかは未定とされています。
ソフトバンクは、企業向けにSarashinaの有料サービス(月額固定の専用プランと従量課金プラン)を提供していますが、料金は問い合わせ制で公表されていません。また、同サービスのモデル一覧に載っているのはSarashina3 miniなどで、今回の思考モデルの企業向け提供時期や価格は未発表です。そのため、本記事では他社モデルとの料金比較は行っていません。
使い方と必要な環境
使い方の流れは次のとおりです。
- Sarashinaサービスの公式サイトにアクセスし、Googleアカウントでログインする
- API用の管理画面で「APIキー」(AIを呼び出すための合言葉のようなもの)を発行する
- 自社のシステムやツールから、モデル名に「sarashina3.2-mini-thinking」を指定して呼び出す。考える深さは「reasoning_effort」という設定でlow・medium・highから選ぶ
- ChatGPTのAPIとよく似た形式なので、ChatGPT向けに作られた既存のツールやプログラムを少し書き換えるだけで試せる場合が多い
必要な環境について言えば、AIの計算はすべてSB Intuitions側のサーバーで行われるため、高性能なパソコンや専用のGPUは必要ありません。インターネットにつながる普通のパソコンがあれば十分です。逆に言えば、モデル本体(重み)は公開されていないため、自社のサーバーにダウンロードして動かすことはできません。
プログラミングに詳しくない方は、まずSarashinaサービスのチャット機能でSarashinaの日本語の受け答えを体験し、API連携は社内のエンジニアや開発パートナーに相談するのが現実的です。なお、今回の思考モデルは公式発表上「APIでの提供」とされており、チャット画面で選べるかどうかは告知の中で明記されていません。
日本語の解説動画
SB Intuitionsの公式YouTubeチャンネルには、2026年11月1日時点で本モデルの紹介動画は公開されていません。代わりに、日本語で特徴を約4分にまとめた解説動画を紹介します。こちらはSB Intuitionsの公式動画ではなく、YouTubeチャンネル「テックトピックスTV」による非公式の解説です。思考の深さの使い分け、構造化出力、ベンチマークの得意・不得意、提供条件などを整理しています。
注意点
- 無償ベータ版では、AIモデルやサービスの品質向上のために利用データが使われる場合があります。社外秘の情報や個人情報を入力する前に、利用規約とプライバシーポリシーを必ず確認しましょう
- APIは日本国外からのアクセスを受け付けない仕様です。海外拠点から使う場合や、VPNを経由する場合は接続できないことがあります
- 無償ベータ版の終了時期は未定で、レート制限も今後変わる可能性があります。業務の本番システムに組み込む前提にするのは、正式サービスの条件が出てからが安全です
- ベンチマークの数値はすべてSB Intuitions自身による評価です。自社の業務で本当に役立つかは、実際のデータで試して確かめる必要があります
- 日本文化に関する知識問題は前の世代より点数が下がっています。日本の慣習や文化的な質問が中心の用途では、Sarashina3 miniとの比較も検討しましょう
- モデルの規模(パラメーター数)や、重みの公開予定は公表されていません。自社サーバーで動かしたい場合は、現時点では対象外です
ビジネスでの活用イメージ
公式に強みとされているツール呼び出しとエージェント操作は、「AIに調べさせ、必要なシステム操作までさせる」用途と相性が良い分野です。たとえば、問い合わせ窓口で注文状況を調べて回答する、社内システムの在庫や予約を確認して案内する、といった業務の自動化が考えられます。
また、思考と最終出力が分かれているため、議事録や申込書から必要な項目を取り出して表やデータ形式に整理する作業にも向いています。Web検索を使った回答では出典を示し、危険な内容は拒否するよう強化されているので、社内向けの調べもの支援にも使いやすいでしょう。
迷ったら、まずは「low」で速さを確認し、精度が足りない業務だけ「medium」や「high」に上げる、という段階的な試し方がおすすめです。
まとめ
Sarashina3.2 mini thinkingは、国産LLM「Sarashina」が初めて「答える前に考える」思考モデルになった、節目となるモデルです。考える深さを3段階で選べ、ツール呼び出し・日本語のエージェント操作・安全性では、公式の比較で海外の有力モデルを上回る結果が示されました。
一方で、日本文化の知識が前の世代より下がった点や、規模・正式料金・企業向け提供時期が未公表である点など、まだベータ段階ならではの課題もあります。無料で試せる今のうちに、自社の日本語業務でどこまで使えるかを確かめておくと、正式サービスが始まったときに判断しやすくなるはずです。
参考リンク
- SB Intuitions TECH BLOG:国産LLM Sarashina3.2 mini thinking の紹介
- X(SB Intuitions公式):「Sarashinaサービス」アップデートのお知らせ
- Sarashina API Docs:モデル性能
- Sarashina API Docs:モデル一覧
- Sarashina API Docs:レート制限
- Sarashina公式サイト:日本語に強い 国産の大規模言語モデル
- SB Intuitions プレスリリース:国産生成AI「Sarashina」を利用できる「Sarashinaサービス」の無償ベータ版を提供開始
- SB Intuitions TECH BLOG:Sarashina3 mini / Sarashina3 nano: フルスクラッチで開発した最新の国産LLM
- ソフトバンク:生成AIサービス・機能|Cloud PF Type A
- ITmedia AI+:国産LLM「Sarashina」に初の「思考モデル」 ツール呼び出しやWeb検索性能が向上 APIで提供
- ビジネス+IT:国産LLM「Sarashina」に初の思考モデル実装:API提供でエージェント・検索性能が向上
- YouTube(テックトピックスTV・非公式):国産LLMのSarashina3.2 mini thinkingとは?思考モデルの仕組みと実務での使い分け
- AI共創広場:国産生成AI「Sarashina」を無料で試せる! 6つのAIモデルのAPIとチャットが提供開始

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