ニチレイへのサイバー攻撃、冷凍食品と物流が停止——食のインフラを直撃した理由

ニチレイへのサイバー攻撃で冷凍食品物流が停止したニュースを表すアイキャッチ画像 コラム

冷凍食品大手のニチレイでサイバー攻撃によるシステム障害が発生し、冷蔵倉庫の入出庫や冷凍食品の出荷が一時停止しました。影響はニチレイの商品だけにとどまらず、スーパー、外食、学校給食などにも波及しています。前年の2025年には、アサヒグループホールディングスとアスクルでも、サイバー攻撃によって受注・出荷や物流が止まる事態が起きました。3社の公式発表で確認できる事実を比較し、企業が備えるべきポイントを分かりやすく整理します。

ニチレイで何が起きたのか

ニチレイは、2026年7月13日にグループ内でシステム障害が発生したと公表しました。その後の調査で、同社のサーバーがサイバー攻撃を受けていたことが確認されています。

被害の拡大を防ぎ、顧客や取引先の情報を守るため、ニチレイはグループ内のシステムを遮断しました。この安全措置により、ニチレイロジグループ各社の冷蔵倉庫における入出庫業務と、ニチレイフーズの冷凍食品出荷業務に影響が発生しました。

重要なのは、攻撃者が冷凍庫の温度を直接操作したと発表されているわけではない点です。止まったのは、商品を「いつ・どこから・どこへ動かすか」を管理するデジタルな指示系統です。巨大な倉庫に商品があっても、在庫や出荷先を安全に確認できなければ、通常どおりには動かせません。

発生から業務再開までの流れ

時点 公表された内容
7月13日 システム障害を公表。緊急対策本部を設置し、システムを遮断
7月15日 サーバーへのサイバー攻撃を確認。個人情報漏えいの可能性を個人情報保護委員会へ報告
7月17日 受発注を一部制限しながら、冷蔵倉庫と食品工場で業務を順次再開
7月22日 個人情報が保管されていたサーバーの対象者へ通知。全拠点が週内に通常稼働へ移行する予定と発表

7月22日の第4報時点でも、ニチレイは外部のセキュリティ専門会社、警察、関係機関と連携して調査を継続しています。通常稼働への移行は進んでいますが、原因や攻撃経路を含む事件全体の調査が完了したという発表ではありません。

なぜ冷凍食品や外食まで影響が広がったのか

ニチレイは冷凍食品メーカーであると同時に、日本の低温物流を支える大手企業です。冷凍・冷蔵された商品を倉庫で保管し、必要なタイミングで店舗や工場へ届ける「コールドチェーン」の重要部分を担っています。

テレビ朝日の報道によると、ニチレイの物流網は全国約5,000社に利用され、システム障害の影響はスーパー、外食、ディスカウントストアなどに波及しました。一部店舗では冷凍食品や食材の欠品が発生し、学校給食でも献立変更が必要になった例が報じられています。

これは、大きな駅が一時的に使えなくなると複数路線に遅れが広がるのと似ています。倉庫が各地に分散していても、在庫管理や入出庫の指示を担うシステムが共通化されていれば、一つの障害が広い範囲へ連鎖する可能性があります。

個人情報への影響はどこまで分かっているのか

ニチレイは、被害を受けたサーバーの一部に個人情報が保管されていたことを確認し、漏えいの可能性がある事案として個人情報保護委員会へ報告しました。7月22日の発表では、対象者への個別通知を行っているとしています。

ただし、現時点の公式発表だけでは、漏えいした情報の件数や具体的な項目、攻撃者が実際にデータを持ち出したかどうかは明らかになっていません。「個人情報を保管したサーバーが被害を受けた」という事実と、「情報流出が確定した」という状態は分けて考える必要があります。

ランサムウェアかどうかは公表されていない

企業への大規模なサイバー攻撃では、データを暗号化して身代金を要求する「ランサムウェア」が疑われることがあります。しかしニチレイは、二次被害を防ぐため攻撃の詳細を開示していません。ランサムウェアの使用、侵入経路、攻撃者の名称、金銭要求の有無はいずれも公式には確認されていません。

事件を理解するうえでは、分からない部分を推測で埋めないことが大切です。今後、新しい調査結果が公表された場合には、攻撃手法、情報流出の有無、再発防止策を改めて確認する必要があります。

前年のアサヒグループでは、受注・出荷停止が長期化

アサヒグループホールディングスでは、2025年9月29日午前7時ごろにシステム障害が発生し、暗号化されたファイルが確認されました。午前11時ごろにはネットワークを遮断し、国内の主要データセンターを隔離しています。2026年2月に公表された最終的な調査結果では、攻撃者が障害発生の約10日前にグループ拠点のネットワーク機器を経由して侵入し、パスワードの弱点を突いて管理者権限を奪ったとされています。9月29日にランサムウェアが一斉に実行され、複数のサーバーと一部のパソコンが暗号化されました。

被害拡大を防ぐため、約300拠点を結ぶネットワークやVPN、クラウドとの専用回線が遮断され、受注・出荷システムが停止しました。手作業での対応を続けながら、電子受発注の再開はアサヒグループ食品が2025年12月2日、アサヒビールとアサヒ飲料が12月3日となり、物流業務全体の正常化は2026年2月までかかりました。また、2026年2月18日時点で、従業員・退職者5,117件と取引先関係者など110,396件の個人情報漏えいが確認されています。攻撃は2025年に起き、詳しい原因と被害の最終報告が翌年に公表された事例です。

アスクルでは通販と物流が止まり、顧客情報も流出

アスクルは2025年10月19日午前、ランサムウェア攻撃を検知しました。同日16時30分には「ASKUL」「ソロエルアリーナ」「LOHACO」の受注・出荷業務を停止し、感染が疑われるシステムの切り離し、ネットワーク遮断、全パスワードの変更に着手しています。物流システムが暗号化されたことで、高度に自動化された物流センターの出荷業務が全面停止しました。11月12日からソロエルアリーナを皮切りにWeb注文を再開し、その後、ASKULサイトにも再開範囲を広げました。

外部専門機関の調査では、認証情報が不正利用され、攻撃者が複数のサーバーへ移動して権限を取得したと推定されています。複数種のランサムウェアでデータが暗号化され、バックアップファイルの削除も確認されました。ランサムウェアを想定したバックアップ環境ではなかったため、一部のバックアップも暗号化され、復旧に時間を要したとアスクルは説明しています。2025年12月12日時点で、事業所向け顧客約59万件、個人向け顧客約13万2,000件、取引先約1万5,000件、役員・社員など約2,700件の情報流出が確認されました。

ニチレイ・アサヒ・アスクルを比較

企業 発生日 攻撃手法の公表 主な事業影響 復旧・調査状況
アサヒグループHD 2025年9月29日 ランサムウェア 受注・出荷システムが停止 電子受発注は12月初旬に再開。物流全体は2026年2月に正常化
アスクル 2025年10月19日 ランサムウェア 通販3サービスの受注・出荷、物流センターが停止 11月12日からWeb注文を段階的に再開。顧客・取引先情報の流出を確認
ニチレイ 2026年7月13日 詳細は未公表 冷蔵倉庫の入出庫、冷凍食品の出荷に影響 7月17日から順次再開。原因と情報漏えいの有無は調査継続中

3社に共通するのは、攻撃そのものだけでなく、安全のためにネットワークを遮断したことで、受注・在庫・出荷をつなぐ業務が広範囲に止まった点です。一方、アサヒとアスクルではランサムウェアと情報流出が確認されていますが、ニチレイでは攻撃手法も実際の情報流出もまだ確定していません。判明している範囲を分けて見る必要があります。

公表資料から見える損害額と業績への影響

企業 会社が公表した金額 金額に含まれる主な内容
アサヒグループHD 2025年:約400億円
2026年第1四半期:約200億円弱の追加影響を見込み
売上減少による利益減、在庫の廃棄・評価減、復旧人件費、広告キャンセル費用など。2026年分は利益減約100億円と販促・情報セキュリティー費用など100億円弱
アスクル システム障害対応費用:51億800万円
休止固定資産減価償却費:12億6,900万円
物流基盤の維持、システム調査・復旧、出荷期限切れ商品の評価損、停止期間中の設備償却費
ニチレイ 未公表 7月22日までの公式発表には、売上減少額、復旧費用、業績予想への影響額の記載なし

アサヒグループHDが公表した約400億円は、攻撃者へ支払った金銭ではありません。2025年の売上減少による限界利益への影響が第3四半期で約20億円、第4四半期で182億円、在庫の廃棄・評価減やシステム復旧人件費などが約170億円となり、合計で約400億円の業績影響と説明しています。さらに2026年第1四半期には、売上減少による利益減が約100億円、販売回復のための広告販促費や情報セキュリティー費用などによるコスト増が100億円弱になる見込みです。単純に足すと2025年から2026年第1四半期までの公表影響は約600億円弱ですが、会社はこの合計を正式な「損害額」として発表しているわけではありません。

アスクルは2026年5月期の決算で、ランサムウェア攻撃に伴うシステム障害対応費用51億800万円を特別損失として計上しました。これとは別に、停止期間中の休止固定資産減価償却費12億6,900万円を営業外費用に計上しています。両方を合わせると、決算書で直接確認できる負担は少なくとも63億7,700万円です。ただし、同年度の売上減少や営業赤字、純損失のすべてをサイバー攻撃だけの損害とみなすことはできません。ニチレイについては、現時点で金額が発表されていないため、商品の出荷停止日数などから独自に損害額を推計することは避けています。

企業が備えるべき3つのポイント

備え 具体的な内容
侵入と横展開を抑える ネットワークを業務・拠点ごとに分離し、管理者権限を厳格化する。リモート接続や管理アカウントには多要素認証を徹底する
バックアップを攻撃から守る 通常ネットワークから切り離したバックアップを用意し、ランサムウェアを想定した復元テストを定期的に行う
止まった後の業務を訓練する 電話・紙・限定端末による受発注や出荷、取引先への連絡、代替物流まで含めた事業継続計画を作り、現場で試す

アサヒの事例では、弱いパスワードから管理者権限を奪われたことが被害拡大につながりました。アスクルでは、攻撃を想定した形でバックアップが分離されておらず、復旧に時間を要しました。セキュリティ対策は侵入防止だけでなく、被害を狭い範囲に閉じ込め、バックアップを守り、重要業務を早く再開できるところまで設計する必要があります。

まとめ:サイバー攻撃は食のインフラも止める

2025年のアサヒグループとアスクル、2026年のニチレイに共通するのは、サイバー攻撃がデジタル部門だけでなく、商品の受注、倉庫、出荷、店舗や取引先まで止めたことです。公表資料では、アサヒで約400億円、アスクルで少なくとも63億7,700万円の直接的な費用・業績影響を確認できます。アサヒとアスクルの調査結果からは、権限管理、ネットワーク分離、攻撃から隔離したバックアップ、手作業を含む事業継続計画の重要性が分かります。ニチレイでは損害額、個人情報への影響、攻撃手法に未確定の部分が残っており、今後の公式発表を待つ必要があります。企業には、攻撃を防ぐ対策と同時に、「止まった後も事業を続ける」ための準備が求められます。

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この記事を書いた人
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毎日20時間以上AIの実践・研究に没頭するITエンジニア。20年以上にわたり、オンラインゲームや生活関連など幅広いジャンルのオウンドメディアで執筆・編集長を歴任。現在は上場企業グループの代表取締役を務め、複数の事業者団体で理事を兼務する経営者でもある。テクノロジーの最前線に身を置きつつ、地域の商店街や神社の運営にも深く携わるなど、地域活性化にも尽力。圧倒的な現場経験とITの専門知識、経営者の視点から、信頼性の高い有益な情報を発信している。
Olive株式会社 代表取締役

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