日本語に強い無料の文字起こしAI「Haas-ja-v1.0」とは?精度比較・無料デモの試し方・料金と注意点

コラム

会議の録音やインタビュー、動画の字幕づくりで欠かせなくなった「文字起こしAI」に、日本語に特化した新しい選択肢が登場しました。日本のAI企業Third Intelligence(サード・インテリジェンス)が2026年10月30日に公開した「Haas-ja-v1.0(ハース・ジェイエー)」です。

Haas-ja-v1.0は、モデル本体(AIの中身にあたるデータ)が無料で公開されており、商用利用もできるライセンスで提供されています。同社の発表では、無料で公開されている文字起こしAIの中で最も高い日本語の精度を記録し、しかも非常に高速だとしています。

この記事では、エンジニアでない方にも分かるように、Haas-ja-v1.0とは何か、ほかのAIとの精度・速度の比較、ブラウザで試せる無料デモの使い方、料金の考え方、そして使う前に知っておきたい注意点を順番に整理します。

公式Xでの発表

こちらは、Third Intelligenceの公式Xアカウント(@third_i_inc)による発表投稿です。開発の詳しい内容をまとめた研究ブログへのリンクが紹介されています。この投稿自体は動画付きではありません。また、記事執筆時点(2026年11月4日)で、Third Intelligenceの公式YouTubeチャンネルや公式の紹介動画は見つかりませんでした。

開発者のXで公開された紹介動画

こちらは、Third Intelligenceのリサーチエンジニアで、Haas-ja-v1.0の開発に携わったTatsu Matsushima氏(@tatsunari_m)による公開告知の投稿です。会社の公式アカウントではなく開発者個人のアカウントですが、投稿には紹介動画が2本と画像が添付されています。

Haas-ja-v1.0とは?

Haas-ja-v1.0は、日本語の音声を文字にすることに特化したAIモデルです。名前の「Haas」は「Hear Anything At Speed(何でも速く聞き取る)」の頭文字で、音響の分野で知られる研究者ヘルムート・ハースにちなんでいるそうです。

土台には、NVIDIAが公開している高速な音声認識モデル「Parakeet(パラキート)」の仕組みが使われています。大きさは約6.2億パラメータ(AIの規模を表す数)で、最近の大規模なAIと比べるとかなり小型です。小型だからこそ、処理が速く、動かすコストも抑えられるのが特長です。

学習には、日本語の音声コーパス「ReazonSpeech」や「Common Voice」、YouTube由来の音声データ「YODAS」に社内データを加えた、約4万6,000時間分の音声が使われました。精度の測定に使った音声は、学習データと重ならないように分けたと説明されています。

ライセンスはApache 2.0で、モデルの重み(学習済みのデータ)とプログラムの両方に適用されます。Apache 2.0は、商用利用や改変を広く認めるオープンソースの代表的なライセンスです。モデルはHugging Face、プログラムはGitHubで公開されています。

他の公開モデルとの精度・速度の比較

Third Intelligenceは、5種類の日本語音声テストを組み合わせた評価セット「asr-ja-bench」を作り、ほかの無料公開モデルと比べました。精度の指標は「文字誤り率(CER)」で、書き起こした文字のうち何%を間違えたかを表し、数字が小さいほど正確です。ここでは、漢字とひらがなの書き分けの違いも誤りとして数える、最も厳しい基準(CER strict)の数値を載せています。

処理の速さは「RTFx」という指標で、1秒間に何秒分の音声を書き起こせるかを表し、数字が大きいほど速いという意味です。速度はすべてNVIDIAのデータセンター向けGPU「H200」1枚で測られています。

テスト(音声の種類)Haas-ja-v1.0Nemotron 3.5 TranscribeWhisper large-v3Parakeet TDT_CTC 0.6B(日本語版)Qwen3-ASR 1.7BKotoba-Whisper v2.0
総合(5テストを音声の長さで重み付け平均した誤り率)★ 6.12%6.89%7.22%7.23%7.59%8.04%
FLEURS(翻訳文の読み上げ)3.67%★ 3.54%4.25%5.50%4.93%6.75%
JSUT(常用漢字を網羅した文の読み上げ)★ 5.32%5.90%6.97%6.35%8.48%8.21%
JVNV(感情のこもった話し方)★ 4.53%6.02%7.52%9.24%5.93%6.20%
TEDxJP-10K(日本語のTEDx講演)★ 8.35%9.53%8.78%8.40%8.94%9.83%
SpeechBSD(ビジネス場面の会話)5.47%5.36%5.31%★ 4.92%5.61%5.56%
処理速度 RTFx(大きいほど速い)3,236190212★ 3,407323432

★と色付きは各テストの1位です(数値はThird Intelligence発表)。誤り率は小さいほど、処理速度は大きいほど優れています。

総合の誤り率では、Haas-ja-v1.0が6.12%で、比較された無料公開モデルの中で最も正確という結果でした。特に、感情のこもった話し方(JVNV)では2位以下に大きな差をつけています。一方で、翻訳文の読み上げ(FLEURS)ではNVIDIAのNemotron 3.5 Transcribeが、ビジネス会話(SpeechBSD)ではParakeetの日本語版が上回っており、どの場面でも1位というわけではありません。

速度では、同じ仕組みを持つParakeetの日本語版がわずかに速いものの、Haas-ja-v1.0は誤り率が約1.1ポイント低く、ほぼ同じ速さで精度を高めた形です。Nemotron 3.5 TranscribeやWhisper large-v3と比べると、約15〜17倍の速さになります。なお、公式ブログの速度比較の図には、表にないさらに高速なモデルも載っているため、「最速のモデル」というわけではない点に注意してください。

有料の文字起こしAPIとも比較されています。総合の誤り率は、OpenAIのGPT-Transcribeが6.07%でHaas-ja-v1.0とほぼ同じでした。一方、MicrosoftのMAI-Transcribe 2(4.62%)、ElevenLabsのScribe v2(5.44%)、GoogleのGemini 3.1 Pro(5.54%)はHaas-ja-v1.0より正確で、精度だけなら有料の最上位サービスにはまだ及びません。また、比較対象には、学習データとして使われたReazonSpeechの音声認識モデルは含まれていません。

処理の速さとコストの目安

Third Intelligenceの公式ブログでは、1時間の音声を約1秒で書き起こすデモが紹介されています。これはH200より新しいGPU「B200」を使い、音声を無音の部分で区切って128本まとめて処理した場合の結果です。話しながら文字が出てくるリアルタイム文字起こしのデモもあり、通信の遅れを含めた待ち時間は中央値で約0.18秒だったとしています。

コストについては、データセンターのGPUをフル稼働させた場合の計算上の費用として、音声1時間あたり約0.003〜0.004ドルと試算しています。同程度の精度のGPT-Transcribe(同社の評価時の請求額で約0.30ドル)の約70分の1〜100分の1、有料サービスの中で安い部類のMAI-Transcribe 2やScribe v2(約0.11ドル)と比べても約30分の1です。

ただし、この金額はGPUが常に休まず動いている前提の数字で、サーバーの運用費や人件費は含まれていません。個人が少しだけ使う場合には、この金額がそのまま当てはまるわけではない点に注意が必要です。

無料デモでの試し方

いちばん手軽なのは、Hugging Face上の公式デモ「Haas-ja-v1.0 文字起こしデモ」をブラウザで開く方法です。アカウント登録なしで画面を開くことができ、記事執筆時点では無料で利用できました。

画面上部には「バッチ推論」と「リアルタイム」の2つのタブがあります。バッチ推論では、「音声ファイルを選択」から手元の録音ファイルを選ぶか、ファイルを画面にドロップし、「文字起こしする」を押すだけで結果が表示されます。「マイクで録音」でその場で話した声を書き起こすこともでき、「サンプル」を選ぶと、著作権の切れた夏目漱石『こころ』の朗読音声で試せます。

結果の下には、音声の長さ、AIの処理時間、速度(実時間の何倍で処理できたか)が表示され、文字起こしはTXT形式か、動画の字幕に使えるSRT形式でダウンロードできます。リアルタイムのタブでは、マイクに話しかけると字幕のように文字が表示されていきます。

デモには、固有名詞を正しく書き起こすための「カスタム語彙」と、誰が話したかを区別する「話者ラベル」の機能もあります。カスタム語彙は、たとえば人名や社名などの書き方と読み方を登録しておくと、その言葉を優先して書き起こしてくれる機能です。記事執筆時点のデモの設定では、ファイルは500MBまで、長い音声は300分まで、リアルタイムは60分まで、カスタム語彙は25語までとなっていました。

自分のパソコンで動かすには

Haas-ja-v1.0は無料でダウンロードして、自分のパソコンやサーバーで動かすこともできます。ただし、公式に動作が保証されているのは、LinuxのパソコンにNVIDIA製のGPU(画像処理用の部品)を積んだ環境だけです。ソフト面では、Python 3.11以上と、NVIDIAの音声AI用ツール「NeMo」のバージョン2.7が必要とされています。

公式の案内では、CPUだけでの実行やMac(macOS)には対応していません。内部で使っている高速化の仕組みがNVIDIAのGPU専用の技術に依存しているためです。WindowsやMacで使いたい場合は、基本的にはブラウザのデモを利用するのが現実的です。必要なGPUのメモリ量は未公表です。モデルのファイルは約1.23GBあります。

使い方は、GitHubで公開されているプログラムをインストールし、数行のPythonコードで音声ファイルを読み込ませる形です。対応する音声形式はWAV、FLAC、MP3、OGGで、30秒を超える長い音声は、無音の部分で自動的に区切ってまとめて処理する専用の機能を使います。リポジトリには、長い音声のアップロードと、マイクを使ったリアルタイム字幕を試せるブラウザ用のデモも同梱されています。

話者の区別は、Haas-ja-v1.0単体ではできません。NVIDIAの話者分離モデル「Nemotron-3-Diarization」と組み合わせる仕組みが用意されていますが、こちらは別の環境を用意して動かす必要があります。手順の詳細は、参考リンクのGitHubページをご覧ください。

なお、Hugging Face上では、有志によってMacやWindowsでも動かせる形式(GGUF、ONNX、Core MLなど)に変換したものも公開されています。ただし、これらはいずれも非公式で、精度や動作はThird Intelligenceが保証するものではありません。

料金とAPI料金の比較

Haas-ja-v1.0のモデル本体は無料で、Apache 2.0ライセンスのもと商用利用もできます。公式デモも記事執筆時点では無料で使えました。一方、Third Intelligenceが有料のAPI(ほかのアプリから呼び出して使うサービス)を提供するかどうかは、記事執筆時点で未公表です。

つまり、Haas-ja-v1.0を仕事の仕組みに組み込む場合は、自分でGPUを用意するか、クラウドのGPUを借りて動かすことになります。その場合の費用は、GPUの種類や使い方によって大きく変わります。参考として、主な有料サービスの料金と並べてみました。

サービス料金音声1時間あたりの目安出典
Haas-ja-v1.0(モデル本体)無料(Apache 2.0)GPU代は別途。H200をフル稼働した場合の試算で約0.003〜0.004ドルThird Intelligence公式ブログ
Haas-ja-v1.0(公式デモ)無料(記事執筆時点)—Hugging Face Space
Haas-ja-v1.0(有料API)未公表未公表—
OpenAI GPT-Transcribe1分あたり0.0045ドル約0.27ドル(同社の評価時の請求額は約0.30ドル)OpenAI公式/Third Intelligence公式ブログ
MAI-Transcribe 2、ElevenLabs Scribe v2—約0.11ドル(評価時の請求額)Third Intelligence公式ブログ
Google Cloud Speech-to-Text V2(標準)1分あたり0.016ドル約0.96ドル当サイトの料金比較記事(2026年9月19日時点)
Amazon Transcribe(バッチ)1分あたり0.006ドル約0.36ドル当サイトの料金比較記事(2026年9月19日時点)
xAI Grok Speech to Text1時間あたり0.10ドル0.10ドル当サイトの料金比較記事(2026年9月19日時点)

Third Intelligenceの評価時の請求額は、AIサービスの仲介サービス「OpenRouter」を通じて請求された金額です。各社の最新の料金は、公式サイトで確認してください。そのほかの文字起こしAPIの料金は、文字起こしAPIの料金比較記事で詳しくまとめています。

有料APIは、サーバーの準備がいらず、使った分だけ支払えば済むのが利点です。一方、毎日大量の音声を処理する会社や、音声を外部に送りたくない場合には、Haas-ja-v1.0を自社のGPUで動かすほうが、コストと情報管理の両面で有利になる可能性があります。

使う前に知っておきたい注意点

1つ目は、動かせる環境が限られることです。公式に対応しているのはLinuxとNVIDIAのGPUの組み合わせだけで、一般的なWindowsパソコンやMacでそのまま動かすことはできません。

2つ目は、書き起こし方のクセです。公式ブログによると、Haas-ja-v1.0は「えー」「あの」といった言いよどみや言い直しを省いて、整った文章にする傾向があります。発言を一言一句そのまま残したい場面には向かない場合があります。また、「その通り」を「そのとおり」とひらがなで書くなど、漢字とかなの書き分けは学習データに沿って決まり、利用者が細かく指定することはできません。

3つ目は、固有名詞の扱いです。人名や社名などを正しく書き起こしたい場合はカスタム語彙に登録すると改善が期待できますが、処理時間は約1.3倍に増えるため、本当に必要な言葉だけを登録するよう案内されています。

4つ目は、リアルタイム用途です。Haas-ja-v1.0はもともと録音済みの音声を処理するように学習されたモデルで、リアルタイム字幕は音声を何度も書き起こし直すことで実現しています。業務で使う場合は、環境に合わせた調整が必要です。話者の区別や感情の判定も、単体ではできません。

5つ目は、公式デモに機密情報をアップロードしないことです。デモにアップロードした音声の扱いについては、記事執筆時点で明確な説明は見当たりませんでした。会議の録音など社外秘の音声は、デモではなく自社の環境で処理するのが安全です。

Haas-ja-v1.0が向いている人

  • 大量の日本語音声を、できるだけ安く速く文字にしたい企業や開発者
  • 会議やインタビューの音声を社外のサービスに送らず、自社のサーバーで文字起こししたい方
  • NVIDIAのGPUを積んだLinuxの環境をすでに持っている、または用意できる方
  • 文字起こしサービスやアプリを作りたく、商用利用できる無料モデルを探している方
  • 専門の環境はないが、まずは無料のブラウザデモで日本語の文字起こし精度を試してみたい方

反対に、MacやWindowsのパソコンで手軽に毎日使いたい方や、言いよどみも含めて一言一句を残したい方、最高の精度を求める方は、有料の文字起こしサービスや、Macで動く別の無料モデルも合わせて検討するとよいでしょう。

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まとめ

Haas-ja-v1.0は、日本のThird Intelligenceが無料・商用利用可で公開した、日本語特化の文字起こしAIです。同社の評価では、無料公開モデルの中で最も高い総合精度を記録し、有料のGPT-Transcribeとほぼ同じ精度を、はるかに低いコストで実現できるとしています。

一方で、自分の環境で動かすにはLinuxとNVIDIAのGPUが必要で、言いよどみを省くクセや固有名詞の聞き違いもあります。まずは無料のブラウザデモで、自分の会議やインタビューの音声に近いもので試してから、業務への導入を検討するのがおすすめです。AI JAPAN PROJECTでは、今後も日本語に強いAIツールの動きを分かりやすくお伝えしていきます。

参考リンク

この記事を書いた人
この記事を書いた人

毎日20時間以上AIの実践・研究に没頭するITエンジニア。20年以上にわたり、オンラインゲームや生活関連など幅広いジャンルのオウンドメディアで執筆・編集長を歴任。現在は上場企業グループの代表取締役を務め、複数の事業者団体で理事を兼務する経営者でもある。テクノロジーの最前線に身を置きつつ、地域の商店街や神社の運営にも深く携わるなど、地域活性化にも尽力。圧倒的な現場経験とITの専門知識、経営者の視点から、信頼性の高い有益な情報を発信している。
Olive株式会社 代表取締役

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