Google Cloudが「Gemini エージェント」を発表——Gemini at Work 2026で見えた“仕事を任せるAI”の全体像

コラム

Google Cloudが、仕事のためのAI「Gemini エージェント」を発表しました。米国時間10月8日(日本時間10月9日未明)に開かれたイベント「Gemini at Work 2026」で、Google Cloud CEOのトーマス・クリアン(Thomas Kurian)氏が基調講演の中で紹介したものです。

これまでのAIは「聞かれたことに答える相談相手」が中心でした。今回のGemini エージェントは、「来週の会議を調整しておいて」「市場を調べて、表とスライドにまとめて」といった目的を伝えるだけで、計画を立てて作業を進め、完成した成果物を返してくれることを目指しています。いわば、社内の事情をよく知る「デジタル部下」です。

この記事では、発表の中身、GmailやGoogleドキュメントでの使われ方、安全面とコストの仕組み、提供時期・料金・日本での状況、そして中小企業や個人事業主が今から考えておきたい使いどころを、専門知識がなくてもわかるように整理します。

公式の紹介動画

Google Cloudの公式YouTubeチャンネルで公開された、Gemini エージェントの紹介動画(約1分40秒)です。日本時間10月8日(木)午後9時ごろに公開されました。1つの入力欄から調べもの、資料づくり、データ分析、コードまでを頼む様子がイメージしやすくなっています(英語)。

Gemini at Work 2026とは

Gemini at Workは、Google Cloudが企業向けにAI「Gemini」の活用を紹介するイベントです。2026年は米カリフォルニア州マウンテンビューにある、NASAエイムズ研究センター内の歴史的な格納庫「Hangar One」で開催され、世界向けにライブ配信されました。GoogleのCEOスンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏も自身のXで、700社以上の顧客が会場に集まったと投稿しています。

イベントはすでに終了しており、基調講演の録画はGoogle Cloudの公式YouTubeで公開されています。主な時刻を日本時間でまとめると、次のとおりです。

日本時間出来事
10月8日(木)午後9時ごろGoogleの公式ブログ(blog.google)とGoogle Cloud公式YouTubeで、Gemini エージェントの発表と紹介動画を公開
10月9日(金)午前2時15分ごろGoogle Cloud公式YouTubeでライブ配信が開始(公式サイト上の基調講演開始時刻は太平洋時間10月8日午前10時30分=日本時間午前2時30分)
10月9日(金)午前2時19分ごろクリアン氏が自身のXで、Gemini エージェントの発表を紹介動画つきで投稿
10月9日(金)午前2時45分ごろGoogle Cloud公式Xが紹介動画つきで発表を投稿し、その後、機能や事例を連続投稿
10月9日(金)午前3時42分ごろライブ配信が終了(録画は約87分)
10月9日(金)Google Cloud公式ブログに、基調講演をもとにした日本語の抄訳記事「Gemini at Work 2026 で Gemini エージェントを発表」が掲載

なお、イベント公式サイトによると、アジア太平洋向けの基調講演の再配信や技術セッションは、10月14日〜15日の「Cloud Technical Series」の中で用意されるとのことです。

主役は「Gemini エージェント」——目的を伝えれば仕事を仕上げる

Google Cloudの公式ブログによると、Gemini エージェントは「仕事のための、ひとつの汎用的なエージェント」です。質問への回答、調べものや文書作成といった知的な仕事、画像などのメディアづくり、プログラムを書いて動かすことまでを、1つの入力欄から頼めます。クリアン氏は「指示ではなく、目的を渡してください」と表現しています。

公式ブログが挙げた主な特徴は次のとおりです。

  • どこからでも同じGeminiを使える:ウェブ、iPhone・Androidのスマホ、WindowsとMacのパソコンのほか、Google Workspace、Microsoft 365、Slackなどからも呼び出せます。
  • パソコンを閉じても作業が続く:処理はクラウド上で動くため、数時間〜数日かかる仕事も、ノートパソコンを閉じたあとに進み続けます。どの端末から話しかけても、同じ記憶と前提を引き継ぎます。
  • 必要に応じて「臨時チーム」を組む:複雑な仕事では、その作業専用の小さなエージェント(サブエージェント)を自動で作り、手分けして進めます。
  • チームの一員としても働く:「コワーカー エージェント」として、専用のメールアドレスや保存場所を持つ“AIの同僚”を作ることもできます。
  • 使うAIモデルを仕事ごとに選ぶ:Googleの説明では、エージェントと、その中で動くAIモデルは別物です。現時点ではGoogleのGeminiモデル群とAnthropicのClaudeモデルを使い分け、将来は他社やオープンなモデルにも広げるとしています。

料理にたとえると、これまでのAIが「聞けばレシピを教えてくれる料理本」だったとすれば、Gemini エージェントは「献立を決めて、買い出しから調理、盛り付けまでやってくれる料理人」に近い存在です。しかも、その日の料理に合わせて道具(AIモデル)を使い分けます。

Googleは、Geminiが1つ目の仕事より2つ目、3つ目と、使うほど会社や本人の仕事の仕方を覚えていくと説明しています。新入社員が職場の人や道具、仕事の流れを覚えていくように、Gemini自身が「入社手続き」をするイメージです。

公式Xで公開された紹介動画

Google Cloudの公式Xアカウント(@googlecloud)による発表ポストです。「24時間365日働くクラウド上の汎用エージェント」として、仕事に使うツールやデータ、これまでの作業の流れを最初から把握していること、管理機能が組み込まれていることを、短い動画で紹介しています。

GmailやGoogleドキュメントの中で働く——Workspaceでの3つの使い方

ビジネスパーソンにとって身近なのが、Google Workspace(Gmail、ドライブ、ドキュメント、スライド、スプレッドシート、Chat、カレンダー)の中での使い方です。公式ブログでは、次の3つの形が紹介されました。

  • 個人のアシスタントとして:たとえば「来週、いつもの地域イベント担当メンバーと打ち合わせを設定して」と頼むだけで、名前やメールアドレスを書かなくても、Chatのメンバーや前回のメールのやり取りから相手を割り出し、予定を確認して日程調整のメールを始めてくれます。社外の参加者がいても対応するとしています。
  • 先回りして「任せられる仕事」を提案:上司から「最新の進捗をスライドで送って」とメールが来たら、それを任せられる仕事として見つけ、ワンクリックでGeminiに渡せる選択肢を表示します。受信トレイでも、届いた順ではなく、いま一番大事なメールを理由つきで示します。
  • チームの一員として:「イベント担当」のように役割を説明すると、Geminiがその役割のエージェントを作ります。このエージェントには専用のWorkspaceアカウント(メールアドレス、カレンダー、ドライブ、社内名簿への表示)が与えられ、同僚と同じようにChatのグループに入れたり、ドキュメントのコメントで@メンションしたりして仕事を頼めます。

AIの同僚は「頼んだ人の代わり」ではなく、自分自身の名前で動きます。ドキュメントの編集履歴にもそのエージェントの名前で残り、見られるのは共有された情報だけです。新しく入ったアルバイトさんに、必要なフォルダだけ共有して仕事を頼む感覚に近いでしょう。

なお、Google Workspaceには、AnthropicのClaudeがドキュメントやスプレッドシートを直接編集できる「Claude for Google Workspace」も登場したばかりです(Claude for Google Workspace登場——Googleドキュメント・スプレッドシート・スライドの中でClaudeが直接編集)。いつものオフィスアプリの中で、複数のAIが働く時代に入りつつあります。

会社の仕事を覚える「スキル」と、つながる先

Googleは、Geminiが会社の事情を理解するための仕組みを、「ツール」「スキル」「記憶」の3つで説明しています。

  • ツール(つながる先):Confluence、Microsoft Office、Teams、Slack、Workspaceといった共同作業ツール、Salesforce、ServiceNowなどの業務システム、BigQuery、Snowflakeなどのデータベース、さらに手元のパソコンのファイルにも安全に接続できます。中小企業向けの公式ブログでは、Asana、Box、Docusign、Dropbox、Notion、Shopify、Wixなども例に挙がっています。
  • スキル(仕事の手順書):特定の仕事の進め方をまとめた「再利用できる手順書」です。Googleが用意したスキルに加え、部署や個人で独自のスキルを作り、社内で共有できます。いわば「社内常識アタッチメント」で、一度教えれば同じ品質で繰り返してくれます。
  • 記憶:いま進めている作業の記憶、読んだ資料や会話から作る知識、仕事のやり方、過去にやったことの記録という4種類の記憶を持ち、使うほど精度を上げるとしています。

データ分析の分野にも力が入っています。一般の社員が「先月の地域別売上は?」のように普通の言葉で聞くだけで、最新の数字にもとづく業務レポートを作れるようになるとのことです。一度作って保存したレポートは、その後はAIの利用料(トークン料金)をかけずに何度でも同じ形で出せると説明されています。

さらに、業界ごとに特化したGeminiも発表されました。現在は「金融サービス」と「法務」向けがプレビュー(試験提供)中で、政府・医療・小売向けも近日予定です。金融向けは50以上の基本スキルを備え、調査やリスク分析を根拠つきで進めます。法務向けでは、米法律事務所のCooleyが、裁判書類を公開する前に個人情報や機密情報を自動で黒塗りするエージェントを開発中と紹介されました。

安全管理とコストの仕組み

AIに仕事を任せるうえで企業が一番気にするのは、「勝手なことをしないか」と「費用が膨らまないか」です。Googleはこの2点に多くの時間を割いて説明しました。

仕組みどういうものか(公式発表)
エージェントごとの身分証すべてのエージェントに、社員証のような固有のIDを付与。必要最小限の権限だけを与え、IDは作業記録にも刻まれます
権限の管理どのエージェントが何にアクセスしてよいかを、社内のセキュリティ管理者が承認した役割ごとに細かく設定
すべての行動を記録Geminiの行動はすべて記録され、「人」ではなく「どのエージェントがやったか」がわかる形で残ります
Agent Gatewayエージェントの通信をすべて通す「AI用の関所」。「機密区分の文書は開かない」といったルールを一度書けば、社内の全エージェントに適用
AIモデルの使い分け簡単な仕事は小さく安いモデル、難しい仕事は高性能モデルと、作業ごとに最適なモデルを組み合わせる
Smart Routing仕事の内容を見て、性能とコストのバランスが最もよいモデルへ自動で振り分ける機能
リアルタイムの予算上限プロジェクトごとに使ってよいAI費用の上限を設定。上限に達するとエージェントが一時停止し、ワンクリックで再開できます。部署ごとの費用の付け替えも可能

携帯電話の「データ通信量の上限設定」のように、使いすぎたら自動で止まる仕組みがあるのは、予算に限りがある中小企業にとって安心材料です。Googleは、AIの単価は2024年から98%下がった一方で、企業のAI利用量が爆発的に増え、何でも高性能モデルに任せると予算がすぐに足りなくなると指摘しています。

AIモデルについて、公式ブログは基盤として、最先端の推論を担う「Argon」、速さと大量処理の「Flash」、画像・動画などを作る「Omni」、軽量でオープンな「Gemma」を挙げました。Argonについては、AI共創広場でも発表時に解説しています(Google、新AI「Gemini 4 Argon」を発表——まず信頼できるサイバー防御の現場から)。

提供時期・料金・日本での状況

気になる「いつから、いくらで使えるか」については、10月9日(金)夜の時点で次のことがわかっています。

項目わかっていること
提供状況現在は一部の顧客向けの早期アクセス(試験提供)。Google Cloudの中小企業向け公式ブログは「中小企業の顧客と早期アクセスを進めており、近日中にすべての顧客に提供する」としています
早期アクセスの範囲Gemini Enterpriseの製品ページによると、複数の手順をバックグラウンドで任せる機能、スマホ・パソコンアプリ版、他社AIモデルの選択などは早期アクセス段階で、近日中に全顧客へ広げる予定
一般提供の時期公式な日付は未発表。米調査会社Constellation Researchは、アナリスト向け説明をもとに「10月末から11月初めごろ」の見込みと報じています
料金公式発表では新しい料金は示されていません。米VentureBeatは、Google Cloud広報の話として「Gemini Enterpriseを利用できる顧客(既存のGoogle WorkspaceのBusiness・Enterpriseプランを含む)には追加料金なしで含まれる予定」「詳しい料金は提供拡大時に案内」と報じています
いま試せるものGemini Enterpriseの公式ページでは、「Gemini Enterprise Plus」エディションを30日間無料で試せる窓口を案内しています(新エージェントの全機能が含まれるとは限りません)
日本での状況Google Cloudは10月9日に日本語の抄訳記事を公開し、日本企業の活用例も紹介しました。ただし、新しいGemini エージェントの日本での提供開始日や日本語対応の範囲は、現時点で公式に示されていません

日本企業の活用事例

今回の発表では、すでに多くの企業が「Gemini Enterprise」(Googleの企業向けAIサービス)を使っていることも強調されました。Googleによると、過去1年でGoogle Cloudの顧客のうち約500社がそれぞれ1兆トークン以上を処理し、米フォーチュン100企業の約90%がGemini Enterpriseを使っています。日本語の抄訳記事では、日本企業の例として次の取り組みが紹介されています。

  • SOMPOホールディングス:3万4,000人の従業員向けに1万を超える独自のAIエージェントを作り、文書検索や要約などを自動化。エンジニアチームは、新しいモデルの開発期間を1週間から1日に短縮しました。
  • NTTドコモ:データ分析用のエージェントで、知りたい数字が手に入るまでの時間を2週間から即時に短縮し、年間45万時間分の作業時間を生み出しました。今後はGemini Enterpriseを展開し、さらなる生産性向上を進めるとしています。
  • 丸紅・日立製作所など:総合商社の丸紅もアジア太平洋地域の導入企業として名前が挙がり、日立製作所は現場作業員向けに200を超える用途でエージェントを活用している例が紹介されました。

なお、これらは主に既存のGemini Enterpriseの活用例で、今回発表された新しいGemini エージェントの導入実績ではない点には注意が必要です。

中小企業・個人事業主の実務での使いどころ

Google Cloudは中小企業向けの公式ブログで、Geminiを「プロジェクトマネージャー」「経理担当」「在庫管理担当」「マーケティング担当」のような役割を担う、柔軟なチームメンバーとして使えると説明しています。提供が広がったときに試しやすい使い方を、身近な業務に置き換えてみます。

  • 日程調整と議事メモ:「来週、取引先A社と30分の打ち合わせを調整して、終わったら要点と次のアクションをまとめて」と、調整から記録までをまとめて任せる。
  • 報告資料づくり:上司や取引先からの「進捗をスライドで」という依頼メールから、関連ファイルやメールをもとに下書きのスライドを作らせ、人が仕上げる。
  • 売上・在庫の定例レポート:「毎週月曜に、先週の商品別売上と在庫の少ない商品を一覧にして」と、決まった形のレポートを定期的に作らせる。
  • 問い合わせ対応の下書き:よくある質問への回答方針を「スキル」として教えておき、返信メールの下書きを作らせて、送信前に人が確認する。
  • 市場調査と企画書:競合や市場の動きを調べ、表計算で簡単な数字の比較を作り、それをもとに企画書のたたき台をまとめさせる。

ポイントは、いきなり全部を任せるのではなく、「調べる・まとめる・下書きする」はAI、「判断する・送る・承認する」は人、と役割を分けることです。予算上限の設定や、AIの同僚に共有するフォルダを絞るといった管理機能も、最初から小さく使い始めることで効果を発揮します。

いま確認しておきたい注意点

  • まだ誰でも使えるわけではない:現時点は一部顧客向けの早期アクセスです。発表された機能がすべて、すぐ手元のWorkspaceに現れるわけではありません。
  • 対象プランと料金は正式発表待ち:「追加料金なし」は報道ベースの情報です。AIの同僚をたくさん作った場合の費用や、追加のライセンスが必要かどうかは、まだ明らかになっていません。
  • 日本語・日本での提供は未確定:日本での提供開始日や、日本語でどこまで使えるかは公式に示されていません。導入を考える場合は、Google Cloudや販売パートナーに確認するのが確実です。
  • 他社モデル(Claude)の利用条件:公式ブログは「現時点でClaudeも使い分ける」としていますが、製品ページでは他社モデルの選択は早期アクセス段階とされています。データの扱いも含め、利用前に条件を確認しましょう。
  • 個人向けGeminiとは別の話:今回の発表は企業向けです。個人向けの無料版Geminiや有料プランで同じ機能が使えるかについては、今回の発表では触れられていません。

まとめ

Gemini at Work 2026で発表されたGemini エージェントは、「AIに質問する」から「AIに仕事を任せる」への転換を、Googleが企業向けにはっきり打ち出したものです。GmailやGoogleドキュメントの中で、日程調整や資料づくりを先回りして引き受け、必要ならAIの同僚としてチームに加わります。

一方で、現時点は早期アクセスの段階で、日本での提供時期や料金の詳細はこれからです。まずは「どの仕事を任せたいか」「どこまでの情報を共有してよいか」を社内で整理しておくと、提供が始まったときにすぐ試せます。続報が出しだい、AI共創広場でもお伝えします。

参考リンク

この記事を書いた人
この記事を書いた人

毎日20時間以上AIの実践・研究に没頭するITエンジニア。20年以上にわたり、オンラインゲームや生活関連など幅広いジャンルのオウンドメディアで執筆・編集長を歴任。現在は上場企業グループの代表取締役を務め、複数の事業者団体で理事を兼務する経営者でもある。テクノロジーの最前線に身を置きつつ、地域の商店街や神社の運営にも深く携わるなど、地域活性化にも尽力。圧倒的な現場経験とITの専門知識、経営者の視点から、信頼性の高い有益な情報を発信している。
Olive株式会社 代表取締役

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