中国のAI企業DeepSeekが、2026年7月31日に「DeepSeek V4 Flash」正式版のAPIをパブリックベータとして公開しました。今回の注目点は、単に返答が速いということではありません。パソコン上の道具を使いながら仕事を進める「AIエージェント」の能力が大きく伸び、上位モデルであるV4 Proのプレビュー版を9つの評価項目すべてで上回りました。
さらに、OpenAIのResponses API形式に対応し、Codexから利用するための公式設定も用意されました。この記事では、4月のプレビュー版から何が変わったのか、一般のビジネス利用にどんな意味があるのかを、専門用語をできるだけ避けて解説します。
DeepSeek V4 Flash正式版で何が変わったのか
DeepSeek V4 Flashは、2026年4月にプレビュー版として登場した、速度とコストを重視するモデルです。正式版の名称は「DeepSeek-V4-Flash-0731」。公式説明によると、モデルの構造や大きさはプレビュー版と同じで、公開後の追加学習である「ポストトレーニング」をやり直すことで、AIエージェントとしての能力を強化しました。
たとえるなら、エンジンや車体は同じまま、運転教習を徹底的にやり直したような更新です。AIの知識量を単純に増やしたというより、指示を理解し、必要な道具を選び、複数の作業を最後まで進める訓練が改善されたと考えると分かりやすいでしょう。
上位のV4 Proプレビュー版を9項目すべてで上回る
DeepSeekが公表したエージェント系ベンチマークでは、V4 Flash正式版がV4 Proプレビュー版を9項目すべてで上回りました。代表的な結果は次の通りです。
| 評価項目 | V4 Flash正式版 | V4 Proプレビュー版 | 何を測るテストか |
|---|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1 | 82.7 | 72.1 | ターミナルを使う作業 |
| NL2Repo | 54.2 | 38.5 | 文章の指示からソフトウェア一式を作る力 |
| Cybergym | 76.7 | 52.7 | セキュリティ課題への対応力 |
| Toolathlon-Verified | 70.3 | 55.9 | 複数の道具を使う力 |
特に大きいのは、Flash自身のプレビュー版からの伸びです。Terminal Bench 2.1は61.8から82.7、Cybergymは38.7から76.7へ上昇しました。ただし、これはエージェント作業に重点を置いた評価です。「あらゆる用途で上位モデルより優れている」という意味ではありません。PC Watchの比較では、同じ9項目でClaude Opus 4.8には届いていないため、用途ごとに選ぶ視点が必要です。
公式Xで公開された性能比較
DeepSeekの公式X投稿では、正式版の主な変更点とベンチマーク比較が公開されています。今回の更新がV4 FlashのAPIだけを対象とし、V4 ProのAPIやアプリ・Web版はまだ変更されていない点も明記されています。
Codex対応で「AIに仕事を任せる」使い方がしやすくなる
正式版の実務上の大きな変化が、OpenAIのResponses API形式へのネイティブ対応です。Responses APIは、AIが会話するだけでなく、複数の道具や作業履歴を扱いながら仕事を進めやすくするための仕組みです。DeepSeekはCodex向けの設定手順も公式ドキュメントで案内しています。
これにより、開発者はCodexの作業画面を使いながら、DeepSeek V4 Flashを選択肢として組み込みやすくなります。たとえば、コードの修正、テスト、調査、複数ファイルの整理などを、ひとつの依頼としてAIに進めてもらう使い方です。高速で料金も抑えられているため、試行回数の多い作業との相性が期待されます。
100万トークンの長文対応と低価格API
DeepSeek V4 Flashは、総パラメータ数2,840億のうち、回答時には130億を動かすMoE型のモデルです。必要な専門チームだけを呼び出す会社のような仕組みで、巨大なモデル全体を毎回動かすより効率を高めています。扱える文脈は100万トークン、最大出力は38万4,000トークンです。
| 項目 | 内容(2026年7月31日時点) |
|---|---|
| モデル名 | deepseek-v4-flash(DeepSeek-V4-Flash-0731) |
| コンテキスト長 | 100万トークン |
| 入力料金(キャッシュ未使用) | 100万トークンあたり0.14ドル |
| 入力料金(キャッシュ使用) | 100万トークンあたり0.0028ドル |
| 出力料金 | 100万トークンあたり0.28ドル |
公式料金表では、V4 Proの入力0.435ドル、出力0.87ドルに対し、Flashはおおむね3分の1です。ただし、DeepSeekは今後、北京時間の混雑時間帯に全課金項目を2倍にする方針を予告しています。開始日は未定のため、実際に導入する際は最新の公式料金表を確認してください。
一般の会社では何が便利になるのか
今回の発表は開発者向けAPIが中心ですが、変化の方向は一般業務にも関係します。AIエージェントの性能が上がると、長い資料を読んで要点を整理する、複数のファイルを比較する、社内ルールに沿って文章を整える、調査結果から報告書を作る、といった「いくつかの手順が必要な仕事」を任せやすくなります。
一方で、現時点ではV4 Flash正式版の更新はAPIだけです。DeepSeekの通常のアプリやWeb版が同じ正式版に変わったわけではありません。会社で使う場合は、情報の取り扱い、権限、出力内容の確認手順を決め、小さな業務から試すのが安全です。
注意点:まだパブリックベータ、モデル重みの公開も未発表
「正式版」と呼ばれていますが、APIの提供段階はパブリックベータです。業務システムへすぐ全面導入するより、応答の安定性、ツール利用の正確さ、日本語品質、社内データでの再現性を検証する期間と考えるのがよいでしょう。
また、4月のプレビュー版ではモデル重みがMITライセンスで公開されましたが、今回の正式版については、2026年7月31日時点で新しい重みの公開予定が案内されていません。APIで利用できることと、自社サーバーへダウンロードして運用できることは別なので注意が必要です。V4 Pro正式版については、DeepSeekが今後の提供を予告しています。
まとめ:軽量版が「実務を進めるAI」へ進化
DeepSeek V4 Flash正式版は、同じモデル構造のまま追加学習を改善し、エージェント系の9項目でV4 Proプレビュー版を上回りました。さらにResponses APIとCodexへの対応により、低価格で実務的なAIエージェントを試しやすくなっています。
ただし、比較結果は特定の評価条件に基づくもので、すべての用途で最上位という意味ではありません。API限定のパブリックベータであることも踏まえ、まずは検証可能な小さな仕事から使い始めるのが現実的です。今回の更新は、AIの競争軸が「大きさ」だけでなく、「道具を使って仕事を完了する力」と「費用対効果」へ移っていることを示しています。

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