Dell Pro Precision with GB10とは?——机の上でAIを動かす小型ワークステーション、DGX Sparkとの違いと日本価格・注意点

コラム

「Dell Pro Precision with GB10」は、NVIDIAのAI向けチップ「GB10 Grace Blackwell Superchip」を積んだ、手のひらに載るほどの小型デスクトップです。ChatGPTのような生成AIを、クラウドではなく自分の机の上で動かすための「AI専用の作業机」と考えるとわかりやすいでしょう。

実はこの製品、まったくの新製品ではありません。Dellは米国時間2026年10月7日(日本時間10月8日午前3時ごろ)の発表で、2025年秋に発売した「Dell Pro Max with GB10」を「Dell Pro Precision with GB10」に改称したと明らかにしました。日本のDell公式サイトでも、すでに新しい名前で販売されています。

この記事では、Dell・NVIDIAの公式発表と製品ページ(日本時間10月21日夜に確認)をもとに、何ができる機械なのか、主なスペック、NVIDIA「DGX Spark」など同じチップを使う機種との違い、日本での価格、クラウドのAIとの費用感、そしてITに詳しくない方が検討するときの注意点を整理します。

Dell Pro Precision with GB10とは

Dell Pro Precision with GB10は、AIの開発や試作、手元でのAI実行(推論)に特化した小型ワークステーションです。本体は幅・奥行きとも150mm、重さは約1.31kgで、一般的なパソコンというより「AI専用の箱」に近い存在です。

最大の特徴は、CPUとGPU(AIの計算を担う部品)が共有する128GBの大容量メモリです。Dellの公式資料では、この1台で最大2000億パラメータ(AIの規模を表す数値)のモデルを試したり、調整(ファインチューニング)したり、動かしたりできると説明されています。2台をつなげば、最大4000億パラメータのモデルにも対応するとしています。

中身は、NVIDIAが自社ブランドで販売している「DGX Spark」と同じGB10チップです。OSにはNVIDIAの「DGX OS」(Ubuntu Linuxがベース)が入り、NVIDIAのAI用ソフト一式がそろった状態で届きます。Windowsパソコンの代わりではなく、普段使いのパソコンの横に置いて「重いAIの仕事を引き受けてもらう相棒」という位置づけです。

なお、今回の改称はDellのブランド整理の一環です。Dellは2026年2月の発表で、ワークステーションの名前を「Dell Pro Precision」に統一し、「Dell Pro Max」の名称は新製品の投入にあわせて順次なくしていく方針を示していました。

公式Xで公開された紹介動画

Dell Technologiesの公式Xは、日本時間2025年10月17日午前0時20分、旧名称「Dell Pro Max with GB10」の紹介動画(約15秒)を投稿しています。動画では「New compact design」「Purpose-built for AI workloads」「Bringing AI to the Edge」といった文字とともに、本体の外観や2台を重ねた様子が映し出されます。名前は旧名称のままですが、同じ製品(モデル番号FCM1253)です。

主なスペック

Dellのデータシート(Dell Pro Precision with GB10版)と製品ページに書かれている主な仕様をまとめました。

項目内容
チップNVIDIA GB10 Grace Blackwell Superchip(Arm設計の20コアCPU+Blackwell世代GPU)
AI性能最大1ペタフロップス(1000TFLOPS、FP4という軽量な計算方式での値)
メモリ128GB LPDDR5x(CPUとGPUで共有)、帯域幅273GB/s
ストレージ標準構成は2TB(M.2 2230)または4TB(M.2 2242、自己暗号化対応)のSSD
ネットワーク10GbE有線LAN、ConnectX-7(200Gbps QSFP×2。1本で別のGB10機と接続)、Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
端子USB-C(20Gbps、映像出力対応)×3+電源用USB-C×1、HDMI 2.1b×1
OS・ソフトNVIDIA DGX OS(Ubuntu Linuxベース)とNVIDIAのAIソフトウェア一式
動かせるモデルの目安1台で最大2000億パラメータ、2台接続で最大4000億パラメータ(Dell公表)
大きさ・重さ幅150×奥行き150×高さ45.5mm(最も高い部分51mm)、約1.31kg
電源280WのUSB-C ACアダプター
保証リモート診断後のオンサイト修理付きの基本保証。ProSupportなど上位サービスも選択可

1ペタフロップスというAI性能は、NVIDIAの説明では「スパース性」という計算の省略機能を使った理論上の最大値です。また、何パラメータのモデルが動くかは、モデルの種類や圧縮のしかた、設定によって変わります。いずれもメーカーの目安として受け止めておきましょう。

ソフト面では、NVIDIAがDGX Spark向けに、モデル調整用の「NeMo」、データ分析を速くする「RAPIDS」、AIを手軽に動かす部品集「NIM」、AIエージェントの土台「NemoClaw」などを用意しています。DellもDGX OSとNVIDIAのAIソフト一式が動くことで、作ったAIをデータセンターへ移しやすいと説明しています。

これまでのGB10搭載機と何が違う?

結論から言うと、今回の発表で変わったのは主に「名前」です。Dellの発表は改称だけを伝えており、性能や仕様の変更には触れていません。製品ページのモデル番号もFCM1253のままで、仕様も2025年に発表されたDell Pro Max with GB10(128GBメモリ、1000TFLOPS、最大2000億パラメータ)と同じ内容です。

NVIDIA純正の「DGX Spark」(ファウンダーズ エディション)とは同じGB10チップを使うため、AIの基本性能やメモリ量、OSは共通です。違いは、メーカーとしての保証・サポート体制、ストレージの選び方、ACアダプター(Dellは280W、DGX Sparkは240W)、本体の高さや重さといった部分です。普段からDellのPCを社内で使い、保守窓口をそろえたい企業にとっては、Dell版を選ぶ理由になります。

もう一つの動きが、メモリを64GBにした安価な構成です。NVIDIAは米国時間10月2日、「DGX Spark 64GB」を10月23日(金)からAcer、ASUS、Dell、GIGABYTE、HP、MSIのパートナー各社で発売すると発表しました。価格は4,999ドルからで、1台で最大1000億パラメータのモデルに対応するとしています。ただし、日本時間10月21日夜の時点で、Dellの製品ページやデータシートに64GB構成は見当たらず、Dell版の64GBモデルの価格や日本での発売は確認できていません。

上位機には、より大きなチップ「GB300」を積んだ「Dell Pro Precision with GB300」があります。こちらは最大1兆パラメータのモデルに対応し、今後Windows版も登場予定と発表されていますが、日本のDell公式サイトでの最低価格は28,857,646円と、まったく別の価格帯です。

価格と日本での販売状況

日本では、Dell公式オンラインストアでDell Pro Precision with GB10が販売中です。日本時間10月21日夜の時点で、128GBメモリ・4TB SSD・DGX OS 7の構成が2,140,820円(税込・配送料込)と表示されています。Dellの案内では、正式受注から通常約10日〜2週間でお届けとされています。

同じGB10を使う機種と、公式に表示されている価格を並べると次のとおりです(いずれも日本時間10月21日夜に各公式ページで確認)。

製品販売元メモリ/SSD公式の表示価格備考
Dell Pro Precision with GB10Dell(日本)128GB/4TB2,140,820円税込・配送料込。DGX OS 7
Dell Pro Precision with GB10Dell(米国)128GB/2TB5,903ドル米国Dell.comの表示価格(税別)
NVIDIA DGX Spark(ファウンダーズ エディション)NVIDIA(米国)128GB/4TB6,950ドルNVIDIA Marketplace。NVIDIA AI Enterprise 90日間ライセンス付き
NVIDIA DGX Spark 64GBAcer、ASUS、Dell、GIGABYTE、HP、MSI64GB/(各社による)4,999ドルから10月23日発売予定(NVIDIA発表)。日本価格は未発表
Dell Pro Precision with GB300Dell(日本)―28,857,646円から上位機。GB300搭載

日本のNVIDIA Marketplaceでは、DGX Sparkの価格は表示されておらず、認定チャネルや販売パートナーから購入する案内になっています。また、PC Watch(報道)によると、NVIDIAはメモリの供給制約とコスト上昇を理由に、128GB版DGX Sparkの米国価格を10月2日付けで6,950ドルに値上げしました。メモリ価格の影響で値動きが続いている点は、購入時期を考えるうえで覚えておきたいところです。

なお、日本の価格は4TB SSD構成・税込で、米国の2TB構成・税別とは条件が違うため、単純に比べることはできません。同じ製品でも、販売店や時期、構成によって価格が大きく変わることがあります。

クラウドのAIと比べると

手元にAI専用機を置く代わりに、クラウドでGPUを借りたり、AIをAPI(ほかのソフトから呼び出す窓口)で使ったりする方法もあります。参考として、公式料金ページの価格(日本時間10月21日夜に確認)をいくつか並べます。

使い方提供元公式の料金メモ
Dell Pro Precision with GB10を購入Dell(米国)5,903ドル(一度きり)電気代・保守費は別
GPUサーバーを時間貸し(NVIDIA GH200×1)Lambda1時間あたり2.29ドルGPUメモリ96GB。税別
GPUサーバーを時間貸し(NVIDIA H100 SXM×1)Lambda1時間あたり4.29ドルGPUメモリ80GB。税別
AIをAPIで利用(GPT-6.1 Sol)OpenAI100万トークンあたり入力2.00ドル/出力10.00ドル短い文脈の標準料金
AIをAPIで利用(GPT-6 Luna)OpenAI100万トークンあたり入力0.10ドル/出力0.50ドル軽量モデルの標準料金

単純計算では、米国版の本体価格5,903ドルは、LambdaのGH200を約2,578時間(24時間動かし続けて約107日分)借りる金額に相当します。ただし、これは電気代や保守、性能の違いを考えない大まかな目安です。クラウドのGPUは性能もメモリの速さも大きく異なるため、同じ仕事にかかる時間は一致しません。

使う量が少ないうちは、APIや時間貸しのほうが安く済むことが多いはずです。一方で、AIエージェントを一日中動かし続けたい、社外秘のデータをクラウドに出したくない、使うたびの課金を気にせず試行錯誤したい、という場合には、手元の専用機を持つ意味が出てきます。料金面の考え方は、当サイトの記事「Project Mayaとは?——巨大AIを自分のPCで動かす無料エンジン、料金比較と注意点」でも整理しています。

公式の紹介動画

Dell Technologiesの公式YouTubeチャンネルは、日本時間2026年2月18日夜、旧名称のDell Pro Max with GB10を取り上げた対談動画「Twice the Power, Half the Space: Dell Pro Max with GB10 in Action」(約37分、英語)を公開しています。DellのLogan Lawler氏とNVIDIAのMarie Breedlove氏がオンラインで語り合う形式です。公式の説明文によると、GB10が従来のワークステーションとどう違うか、業界ごとの活用例、CUDAやNIMといったソフトとの組み合わせなどがテーマになっています。

どんな人・会社に向いている?ビジネスでの使いどころ

Dell Pro Precision with GB10が向いているのは、AIを「使う」だけでなく、自社向けに「試す・作る・動かし続ける」段階に進みたい人や会社です。具体的には、AIの開発者やデータ分析の担当者、社内にIT担当者がいて、機密データを扱うAIの仕組みを検討している企業などが想定されます。

ビジネスでの使いどころとしては、次のような例が考えられます。

  • 社外秘の資料を使ったAIの試作:契約書や設計資料など、クラウドに出しにくい文書を読み込ませ、社内専用の質問窓口や要約の仕組みを試す
  • 「デジタル部下」を常駐させる:NVIDIAは、コードレビューや資料分析などをこなすAIエージェントを常時動かす使い方を紹介しています
  • 普段のパソコンの負担を減らす:重いAIの処理をこの1台に任せ、手元のノートPCはほかの作業に使う(Dellもこの使い方を案内しています)
  • 自社データでのモデル調整:NVIDIAによると、最大700億パラメータまでのモデルのファインチューニングに対応します
  • 画像認識やロボットなど現場向けAIの開発:NVIDIAのIsaacやMetropolisといった開発キットを使ったエッジ(現場)向けの試作

どれも、いきなり本番に使うのではなく、社外秘ではない資料と1台の検証機で、回答の質や速さを確かめるところから始めるのが現実的です。手元でAIを動かす意味については、当サイトの「ローカルLLMが必要になる理由、AIを使い続けるためのもう一つの選択肢」もあわせてご覧ください。

導入前の注意点

  • Windowsパソコンではない:OSはLinuxベースのDGX OSです。WordやExcelを使う普段の業務用PCの代わりにはなりません(Windows版が予告されているのは上位機のGB300です)
  • CPUはArm設計:一般的なWindows向け・x86向けのソフトがそのまま動くとは限りません。使いたいツールが対応しているか事前に確認しましょう
  • 専門知識が必要:AIモデルの導入や設定にはコマンド操作が必要な場面が多く、社内のIT担当者や詳しい協力者と進めるのが前提です
  • 「何でも速い」わけではない:大容量メモリで大きなモデルを載せられる一方、速さはメモリの帯域幅(データの通り道の太さ)などにも左右されます。数値上の上限と、実際の業務での使い心地は別物です
  • 価格と構成を確認:日本の公式価格は200万円台と高額で、メモリ価格の影響で値動きもあります。64GB版の日本での提供時期・価格も未発表です
  • AIの答えは必ず人が確認:手元で動かしても、AIが誤った答えを出す可能性は変わりません。外部に出す文書や重要な判断には必ず人のチェックを入れましょう
  • モデルの利用条件:動かすAIモデルごとにライセンス(利用条件)が異なります。商用利用の可否などを確認してから使いましょう

まとめ

Dell Pro Precision with GB10は、NVIDIAのGB10チップと128GBのメモリを小さな箱に収めた、手元でAIを動かすための専用機です。今回の発表は「Dell Pro Max with GB10」からの改称が中心で、性能や仕様が新しくなったわけではありません。中身はNVIDIA DGX Sparkと同じチップで、Dellの保証やサポートと組み合わせて導入できる点が特徴です。

日本ではDell公式サイトで販売中ですが、価格は4TB構成で2,140,820円と高額で、OSもLinuxベースです。使う量が少ないうちはクラウドやAPIのほうが割安な場合も多いため、「社外に出せないデータでAIを試したい」「AIエージェントを常に動かしておきたい」といった目的がはっきりしているときに、IT担当者と一緒に検討するのがよいでしょう。10月23日に予定されている64GB版の動きも、あわせてチェックしておきたいところです。

参考リンク

この記事を書いた人
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毎日20時間以上AIの実践・研究に没頭するITエンジニア。20年以上にわたり、オンラインゲームや生活関連など幅広いジャンルのオウンドメディアで執筆・編集長を歴任。現在は上場企業グループの代表取締役を務め、複数の事業者団体で理事を兼務する経営者でもある。テクノロジーの最前線に身を置きつつ、地域の商店街や神社の運営にも深く携わるなど、地域活性化にも尽力。圧倒的な現場経験とITの専門知識、経営者の視点から、信頼性の高い有益な情報を発信している。
Olive株式会社 代表取締役

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